悪魔のソース・博多んぽん酢を新しい博多の名物にしたい。老人のかなわぬ夢でなく、夢を現実にしてみたい。脳梗塞から三度の生還。ヨレヨレ、ボロボロになりながら、果たせぬ夢を追い続ける男に、強力な助っ人が現れた。平凡だったそれまでの人生が「まさか」の出来事で、がらりと変わる。一度ならまだしも、それが二度も三度も続いた。波乱万丈だが実に、愉快だった。人生の終末期を迎えた今、またもや「まさか」の驚きである。ヒルマン監督ではないけれど、信じられな~いのだ。人生、終わり良ければすべて良しなのだが、それはまだわからない。

2003年08月08日

悪魔の術中にはまった男・その3

今日は「博多んぽん酢」の製造と「土佐酢ドレッシング」の仕込みの様子を見学していただきましょう。

吉野・・ここが作業場です。真ん中にある大きな台、右端に大きなステンレスのボウルがありますね。中を見てください。おっとっと、帽子を御願いしますね。髪の毛が入ったら大変ですからね。
真っ白でしょう。大根おろしです。今から酢を入れますよ。ひたひたに、表面がかぶるぐらいです。このまま、一時間ぐらいこの状態を保ちます。いいですね、これが、酢〆です。酢の殺菌力を利用する方法です。酢を上手に利用して、食品の鮮度を保つようにしたのが、シメサバですね。酢は昔から、殺菌剤として利用されてきました。暮らしのなかで生まれた生活の知恵です。

お客・・赤い色はなんですか。底の方から、赤いものが沁み出ましたね。

吉野・・豆板醤です。これも、防腐剤の代わりです。殺菌に使うのはこれだけではありません。今から、魔法をお見せしますよ。

お客・・ひょっとすると、ノウハウ公開ですか?

吉野・・そっちのボウルは新ショウガです。ちょうど、今が旬ですね。(スライサーでショウガを1㍉の厚さにスライスしながら)
スライスしたものを、今度は繊にきります。千切りではありません。大根やキャベツを細い線に切りそろえることを、千切りといいますね。でもね、<繊>に切るのと<千>に切るのは違います。

お客・・どう違うのですか。

吉野・・ショウガの繊維がこう走っていますね。ここの部分を切ると繊維を断ち切る。繊維に沿うように切るとこうなります。
違いが判りますか。お客さん、目が悪いや。天眼鏡、持ってきてよ。さあ、よく見てください。

お客・・こっちはきれいなのに、これは切り口がギザギザだ。

吉野・・試しに食べてみませんか。どうです。判るでしょう。

お客・・いやあ。まいったね。辛味も香りもまるで別物。違いますね。

吉野・・辛味成分の「シネオール」が効いているからですよ。ミキサーでやれば、簡単ですが、一瞬のうちに繊維を断ち切って、ぐちゃぐちゃにしてしまうから、微妙な味なんて出せる筈がありません。ついでに言えば、ショウガには、血行を良くする働きがあるほか、抗酸化作用があり、老化防止にもなります。寿司屋やラーメン屋に入ったら、ショウガは積極的に食べてくださいね。

お客・・それにしても手間のかかる仕事ですね。もっと、機械化すれば能率があがるのになあ。

吉野・・今、切ったショウガは500㌘です。二人で30分ってとこでしょうか。でもね、大根の処理はもっと大変ですよ。全体の作業量を10とすると、大根をすって殺菌する。ショウガを処理するといった下処理に要する時間が5ぐらい。この部分で手を抜くとロクナものはできませんからね。あとは調合液の中に入れて、かき回し、全体に味が馴染んだところで、最後にもう一度、ショウガを加えます。いいえ、今度は、しぼり汁です。これで、味が引き立ちます。

お客・・ガス台の寸胴鍋で炊いてるのは?

吉野・・さっきから、カツオ節のいい香りがしてるでしょう。(冷蔵庫から大鍋を出しながら)これは、土佐酢のベースになるぽん酢です。スダチ果汁と醤油をブレンドしたものに昆布を漬け込んであります。昆布は利尻です。今、炊いているのは、醤油と味醂、米酢をブレンドしたものをカツオ節で炊いています。これが「土佐酢」の原液です。カツオ節の一大産地、高知でこの技法が生まれたので、カツオ節で出来た調合酢のことを「土佐酢」と呼ぶようになったのです。

お客・・その、土佐酢の故郷、高知で売り出すことになったそうですね。

吉野・・おかげ様で、今月8日から発売が始まりました。やっと里帰りすることが出来ました。今、ご覧のように、丁寧にアクをとってやることが大切です。火加減も大切ですね。どのくらいの温度でどにくらいの時間、炊けばいいか。決まりはありません。その日、その日、鍋の機嫌をうかがいながら、炊きます。ここまでの工程が下準備です。

お客・・さっきから、あちらで刻んでいるのはカツオ節ですか。

吉野・・目が早いですね。工場見学のお土産に差し上げますが、カツオ節のダシガラで佃煮を作ります。いいえ、売り物ではありません。まだ、十分に二番だしが引けます。それを捨てるのはもったいないし、資源のムダ使いになる。捨てればゴミですから、環境も悪くなる。それで、佃煮にしてるわけです。

お客・・土佐酢は昔、デパートにあったのに今はない。なぜですか。

吉野・・博多んぽん酢にしろ、土佐酢にしろ、混じりけなしの超ナマものでしょう。お客様も売り手の百貨店さんも、デリケートな扱いが必要なものに馴染んでおられないので、店頭販売していないだけですが、業務用は今でも製造中です。ただ、一般のお客様はこの商品はご存知ないと思います。今回、高知に里帰りできたのは、ホームページで、土佐酢のことを知られた酒屋の店長さんが、電話してこられ、こちらも、お世話になろうかという気持ちになったからです。

お客・・土佐酢の復活、期待していいですか。

吉野・・ハイ。年内には再発売します。

お客・・それにしても、宣伝しませんね。パンフレットの一枚も無いし、ダイレクトメールも来た事がない。それで、よく20年以上も続きましたね。

吉野・・無言で頭を下げるばかり。

お客・・いかん。もう、こんな時間だ。ヒルメシすませたらまた来ます。今日は、最後までじっくり見学させてもらいますよ。

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Posted by 吉野父ちゃん at 12:00│Comments(0)まさかの人生
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