2003年08月24日
悪魔の術中にはまった男「平兵衛酢」との出会い
工場見学のお客様帰ってこられた? 昼メシ、ゆっくりだね。それじゃあ、宮崎で出会った「平兵衛酢」の話をしましょうか。
「博多んぽん酢」を18年ぶりに再発売しようと決意したのは、平成13年9月。宮崎で、ヘベ酢という不思議な名前の柑橘酢にめぐり会ったからでした。
出張してなにが楽しいといえばそれはもう、食べることです。夏の宮崎を代表する名物は<冷汁>です。目の前にある日向灘で獲れたばかりの新鮮な魚を火で炙り、ほぐした身に豆腐と味噌を加えよく擂りながら、冷たい水かだしでのばしていく。さらに、さらに、キュウリ、ミョウガ、青シソを混ぜ合わせ、熱々のご飯にかけて、かき込むようにして食べる。下品は表現だが、これがメチャウマ。
昼メシはこれに決めたが、問題は何処で食べるのかだ。土地不案内だから、地元の人に聞くのが一番手っとり早いが、どうもお仕着せを食べるようで面白くない。当たり外れはあるだろうが、やはり、自分の足で探すのが一番だ。
美味しいものを食べたいという一念で歩けば、ウマイものの方から飛び込んでくる。こらまで、あまり勘が狂ったことがない。この日は正にそうでした。デパートを出て、繁華街のへ歩きながら、鼻をヒクヒク、看板やのれんを目で探す。これが、実に楽しい。もすぐ美味しいものが食べられると思うとツバが湧いてきます。
その小料理屋さんは、磨き込まれた引き戸の木目がきれいで、両脇に置き塩がありました。こざっぱりした木綿の白のれんに骨太に描かれた魚の文字が踊っていました。
出されたのはアジの冷汁でした。青シソの香が食欲をそそり、シャキシャキした歯応えがするキュウリも良かったが、ナスの漬物が絶品でした。ああ、極楽、極楽。今、日本人しているんだ。そう思っちゃった。こんな、思わぬ出合いが旅の醍醐味です。
平兵衛酢は、別注文したキスゴの塩焼きに添えられていました。濃い緑の平兵衛酢の脇には雪のような大根おろし。色のコントラストも見事だが、青磁の皿に、そっくりかえるように横たわる白い魚体。老舗の小料理屋の夫婦の手仕事。もてなしの心が伝わってきました。
その、平兵衛酢ですが、最初はユズかなと思いました。ボトボトという感じで果汁がしたたり落ちました。ピューっと飛ぶなんてもんじゃありません。ドクドク、ボトボト。音で表現するとこんな感じでしょうか。
カボスやスダチなどの柑橘を搾るとき。無意識のうちに指三本を使いますね。親指と人差し指ではさみ、もう一本、薬指を添え、親指で押すようにして搾りますね。誰に教えられるというものでもなく、毎日の食生活のなかで自然に身体が覚えた知恵です。
洋食で、ムニエルやフライを頼むとタルタルソースの脇に搾り器に入れたレモンがついてきますね。搾り汁が指先を汚すこともないし、力が均等に働くのでなかなか合理的です。
これ、ぼくは嫌いです。確かに、手は汚れますが、それをなめてみて酸味や香りを確かめる。これが文化であって、金属や陶器の助けを借りて食べるものは、五感で食べる味よりもはるかに劣ります。
果皮が薄いのにも驚きました。1㍉あるかないくらいです、柑橘みかんにつきものの種がほとんどありません。味も香も爽やかで格調ある酸味です。とんがった酸っぱさでなく。おだやかでまるみがあります。白身が淡白なキスゴですが、味に広がりを感じました。ユズ、カボス、スダチ、レモン、ダイダイ、ライムいろんな味を知っていましたが、平兵衛酢はこれまでの経験にない味でした。
よし。これだ。これでやろう。この酢に人生の<ん>を賭けてみよう。運がつくか、運の尽きとなるのか。もう一度「博多んぽん酢」を再登場させよう。初めて出会ったお酢が背中をポンと押してくれました。
「お客さん、どちらからですか。随分、お気に召したようですね。それ、へべ酢といいます。ユズやカボスと同じ柑橘ですがちょっと違うでしょう」
「これで湯豆腐食べたら美味しいでしょうね」
「ちょうど、今が旬でね。11月までです。ウチでは、搾った果汁を冷凍にして冬はぽん酢醤油にします。」
「冷凍にして味は変わりません?」
「果汁をそのまま使うのではなく、醤油やだしで割りますので解凍さえうまくやれば大丈夫。一年中、使えますよ」
ヘベ酢の名前の由来はこの酢の栽培に力を注いだ長宗我部平兵衛さんの名前からで、地元では<へべ酢>と呼ぶこと。生産地は県北の日向市一帯だが、生産者の高齢化や後継者不足など、国内農業が抱える問題がすべて凝縮、蓄積され先行きが不透明。このままでは、貴重な文化遺産が消滅してしまう。
「消費が増えれば生産意欲も湧きます。お客さん、是非、お土産にしてくださいね」
へべ酢に寄せるご主人の、熱い想いが心に沁みた旅でした。
「博多んぽん酢」を18年ぶりに再発売しようと決意したのは、平成13年9月。宮崎で、ヘベ酢という不思議な名前の柑橘酢にめぐり会ったからでした。
出張してなにが楽しいといえばそれはもう、食べることです。夏の宮崎を代表する名物は<冷汁>です。目の前にある日向灘で獲れたばかりの新鮮な魚を火で炙り、ほぐした身に豆腐と味噌を加えよく擂りながら、冷たい水かだしでのばしていく。さらに、さらに、キュウリ、ミョウガ、青シソを混ぜ合わせ、熱々のご飯にかけて、かき込むようにして食べる。下品は表現だが、これがメチャウマ。
昼メシはこれに決めたが、問題は何処で食べるのかだ。土地不案内だから、地元の人に聞くのが一番手っとり早いが、どうもお仕着せを食べるようで面白くない。当たり外れはあるだろうが、やはり、自分の足で探すのが一番だ。
美味しいものを食べたいという一念で歩けば、ウマイものの方から飛び込んでくる。こらまで、あまり勘が狂ったことがない。この日は正にそうでした。デパートを出て、繁華街のへ歩きながら、鼻をヒクヒク、看板やのれんを目で探す。これが、実に楽しい。もすぐ美味しいものが食べられると思うとツバが湧いてきます。
その小料理屋さんは、磨き込まれた引き戸の木目がきれいで、両脇に置き塩がありました。こざっぱりした木綿の白のれんに骨太に描かれた魚の文字が踊っていました。
出されたのはアジの冷汁でした。青シソの香が食欲をそそり、シャキシャキした歯応えがするキュウリも良かったが、ナスの漬物が絶品でした。ああ、極楽、極楽。今、日本人しているんだ。そう思っちゃった。こんな、思わぬ出合いが旅の醍醐味です。
平兵衛酢は、別注文したキスゴの塩焼きに添えられていました。濃い緑の平兵衛酢の脇には雪のような大根おろし。色のコントラストも見事だが、青磁の皿に、そっくりかえるように横たわる白い魚体。老舗の小料理屋の夫婦の手仕事。もてなしの心が伝わってきました。
その、平兵衛酢ですが、最初はユズかなと思いました。ボトボトという感じで果汁がしたたり落ちました。ピューっと飛ぶなんてもんじゃありません。ドクドク、ボトボト。音で表現するとこんな感じでしょうか。
カボスやスダチなどの柑橘を搾るとき。無意識のうちに指三本を使いますね。親指と人差し指ではさみ、もう一本、薬指を添え、親指で押すようにして搾りますね。誰に教えられるというものでもなく、毎日の食生活のなかで自然に身体が覚えた知恵です。
洋食で、ムニエルやフライを頼むとタルタルソースの脇に搾り器に入れたレモンがついてきますね。搾り汁が指先を汚すこともないし、力が均等に働くのでなかなか合理的です。
これ、ぼくは嫌いです。確かに、手は汚れますが、それをなめてみて酸味や香りを確かめる。これが文化であって、金属や陶器の助けを借りて食べるものは、五感で食べる味よりもはるかに劣ります。
果皮が薄いのにも驚きました。1㍉あるかないくらいです、柑橘みかんにつきものの種がほとんどありません。味も香も爽やかで格調ある酸味です。とんがった酸っぱさでなく。おだやかでまるみがあります。白身が淡白なキスゴですが、味に広がりを感じました。ユズ、カボス、スダチ、レモン、ダイダイ、ライムいろんな味を知っていましたが、平兵衛酢はこれまでの経験にない味でした。
よし。これだ。これでやろう。この酢に人生の<ん>を賭けてみよう。運がつくか、運の尽きとなるのか。もう一度「博多んぽん酢」を再登場させよう。初めて出会ったお酢が背中をポンと押してくれました。
「お客さん、どちらからですか。随分、お気に召したようですね。それ、へべ酢といいます。ユズやカボスと同じ柑橘ですがちょっと違うでしょう」
「これで湯豆腐食べたら美味しいでしょうね」
「ちょうど、今が旬でね。11月までです。ウチでは、搾った果汁を冷凍にして冬はぽん酢醤油にします。」
「冷凍にして味は変わりません?」
「果汁をそのまま使うのではなく、醤油やだしで割りますので解凍さえうまくやれば大丈夫。一年中、使えますよ」
ヘベ酢の名前の由来はこの酢の栽培に力を注いだ長宗我部平兵衛さんの名前からで、地元では<へべ酢>と呼ぶこと。生産地は県北の日向市一帯だが、生産者の高齢化や後継者不足など、国内農業が抱える問題がすべて凝縮、蓄積され先行きが不透明。このままでは、貴重な文化遺産が消滅してしまう。
「消費が増えれば生産意欲も湧きます。お客さん、是非、お土産にしてくださいね」
へべ酢に寄せるご主人の、熱い想いが心に沁みた旅でした。
Posted by 吉野父ちゃん at 14:00│Comments(0)
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