2004年02月10日
頭の写真を見せられて
MRIが撮影した頭の写真を見せられて「ああ、おれの運命もここまでか」と思った。二度目の脳梗塞で倒れてから、ちょうど一年。今こうして、元気で居ることが不思議だ。写真には、素人の私でもはっきり判る、50円玉ほどの出血痕があったからだ。
「こりゃ、いかんばい。切れとうよ」
「ほな、どうしよう先生」
「切れたもんはどうにもなりません。あんたの運が強うて、この出血がおさまれば、切らんでんよか。」
「なんで、こげなことになるっちゃろう?」
「そら、あんたが不摂生するからタイ」
そう、言ったきり、先生はどこかへ行ってしまった。
手術といっても、細い血管の切れたところを縫い合わせることは出来ないから、ドリルで穴を開けるか、ノコギリで骨をはずし、吸引器で、血を吸い出すのだろう。医者でもないのに、いろんな場面を想像してしまう。
救急病院の処置室というのは、すごい修羅場だ。重病人がひしめいている。息、絶え絶え、瀕死の患者が次から次と、救急車で運ばれてくる。着くと同時に息が止まったという人も居て、その人はすぐ、霊安室へ運ばれた。
見込みのある人は、救命措置を施され、すぐに手術室に運ばれるが、歩行も会話も自由な僕のような患者は、一分一秒を争わないから、どうしても後回しになる。
しばらくして、血まみれの手術着を着た医者が現れた。
「ノウゲの先生よ」
「ノウゲ?」
「脳神経外科。略してノウゲ。判る?」
判る、判る。今から、オレの頭に穴あけるんだな。
歳のころは35か6ぐらい。無精ひげ。痩せて、目つきが鋭い。油断の無い目つきだ。もう一人の、白衣の医者と、新しく撮ったCTスキャンの断層写真と MRIを見比べながら、ボクの両手をぐっと握り締め、握力を調べたり、懐中電灯で目の動きを調べている。いわゆる「神経学的所見」を診ているらしい。
白衣に告げられた。
「右視床に直径1cm強の出血巣があり、周囲に浮腫が認められます。血圧が187―118と異常に高い。瞳孔、目位異常なし。意識清明だが、左顔面と左下肢に軽度の神経麻痺あり。高血圧症、糖尿病、高脂血症、脳梗塞の既往症による発病です。点滴で浮腫の拡散を防止しながら、高血圧、糖尿病、高脂血症の基礎疾患の治療を始めます」。
ノウゲが「出血が止まらなければ、私がすぐに処置します。」と言った。どうやら、手術室行きは免れたらしい。
前回、鹿児島で倒れた時は、さほど感じなかったが、今回はいささかがっくりした。素人でも判るほど出血の後が生々しかったからだ。後遺症が残るとすれば、それはどんな種類のものなのか。筋肉麻痺、それとも言語障害なのか。あるいは、記憶障害ということも考えられる。
とにかく、ベットに縛り付けられて、点滴の注射液がポトリ、ポトリと落ちる様子を見ながら、不摂生を反省したが、もう遅かった。
脳卒中を起こす危険因子を列挙してみると、
①高血圧
②アルコール
③コレステロール
④肥満
⑤喫煙
などがあげられる。
いずれの症状も、本人の心がけ次第。真面目な食生活を送れば病気にかかる心配はない。塩分過多の食事や偏食を避けるだけで予防することが出来る。⑤を除き、すべて当てはまるものばかりで、正直言って、自分で自分が情けなかった。
このことは、だれでも知っているし、そうしたいと思っているのに、なかなか実行できない。なぜだろう。それは、人間として「弱い」からだ。精神的に「幼い」からにほかならない。これでやめればいいのに、と思いながら、つい、もう一杯飲んでしまう浅ましさ。
これが、積もり積もると大変なことになる。
この病気の特徴は、ほとんどの場合、重度の身体障害が後遺症として残る事だろう。しかも、やっかいなことに、血管が詰まったり、破れたりする原因が、百人百様であるため、後遺症の現れ方、重さの程度がまったく異なるから大変だ。
私の場合、軽度の左半身麻痺、注意力低下、集中力低下が残ったものの、外見上は常人と変わらず、一見する限り、二度も脳梗塞を患ったようには見えない。
もし、治療が遅れ、浮腫(むくみ)や血腫(血のかたまり)が広がっていたら、頭の中は逃げ場がないから、内圧がどんどん上がる。極限状態になると、生命中枢神経がやられて、ついに脳死に至る。
そうなっても、不思議ではなかった。危険因子を抱えていながら、漫然と過ごしていたツケが今また、回ってきただけだ。
退院し、改めて生活を見直した。その結果、食事は和食中心に切り替える。納豆、豆腐などの大豆食品、ワカメ、ヒジキなど海藻類を多用し、アルカリ性食品中心の献立にし、肉などの酸性食品は極力、食べないように改めた。
現実の社会を見ると、市販のインスタント食品、加工食品、外食食品には多くの塩分、脂肪分が含まれており、飲酒、過食の習慣は女性や若年層にまで広がっている。
さらに、ストレスの要因は常にいっぱいある。体質に関係なく、だれが高血圧症になってもおかしくないのが現実の社会だ。
昔から、酢が健康に良く、血液をサラサラにする効果のあることは、だれでも知っている。でも「なぜそうなのか」ということは意外に知られていない。
そのメカニズムを解明したのはイギリスのノーベル賞受賞の生化学者クレーブス博士だが、それを知っておくことは、成人病(生活習慣病)予防に大いに役立つと思われる。次号でもう一度、勉強してみたい。
「こりゃ、いかんばい。切れとうよ」
「ほな、どうしよう先生」
「切れたもんはどうにもなりません。あんたの運が強うて、この出血がおさまれば、切らんでんよか。」
「なんで、こげなことになるっちゃろう?」
「そら、あんたが不摂生するからタイ」
そう、言ったきり、先生はどこかへ行ってしまった。
手術といっても、細い血管の切れたところを縫い合わせることは出来ないから、ドリルで穴を開けるか、ノコギリで骨をはずし、吸引器で、血を吸い出すのだろう。医者でもないのに、いろんな場面を想像してしまう。
救急病院の処置室というのは、すごい修羅場だ。重病人がひしめいている。息、絶え絶え、瀕死の患者が次から次と、救急車で運ばれてくる。着くと同時に息が止まったという人も居て、その人はすぐ、霊安室へ運ばれた。
見込みのある人は、救命措置を施され、すぐに手術室に運ばれるが、歩行も会話も自由な僕のような患者は、一分一秒を争わないから、どうしても後回しになる。
しばらくして、血まみれの手術着を着た医者が現れた。
「ノウゲの先生よ」
「ノウゲ?」
「脳神経外科。略してノウゲ。判る?」
判る、判る。今から、オレの頭に穴あけるんだな。
歳のころは35か6ぐらい。無精ひげ。痩せて、目つきが鋭い。油断の無い目つきだ。もう一人の、白衣の医者と、新しく撮ったCTスキャンの断層写真と MRIを見比べながら、ボクの両手をぐっと握り締め、握力を調べたり、懐中電灯で目の動きを調べている。いわゆる「神経学的所見」を診ているらしい。
白衣に告げられた。
「右視床に直径1cm強の出血巣があり、周囲に浮腫が認められます。血圧が187―118と異常に高い。瞳孔、目位異常なし。意識清明だが、左顔面と左下肢に軽度の神経麻痺あり。高血圧症、糖尿病、高脂血症、脳梗塞の既往症による発病です。点滴で浮腫の拡散を防止しながら、高血圧、糖尿病、高脂血症の基礎疾患の治療を始めます」。
ノウゲが「出血が止まらなければ、私がすぐに処置します。」と言った。どうやら、手術室行きは免れたらしい。
前回、鹿児島で倒れた時は、さほど感じなかったが、今回はいささかがっくりした。素人でも判るほど出血の後が生々しかったからだ。後遺症が残るとすれば、それはどんな種類のものなのか。筋肉麻痺、それとも言語障害なのか。あるいは、記憶障害ということも考えられる。
とにかく、ベットに縛り付けられて、点滴の注射液がポトリ、ポトリと落ちる様子を見ながら、不摂生を反省したが、もう遅かった。
脳卒中を起こす危険因子を列挙してみると、
①高血圧
②アルコール
③コレステロール
④肥満
⑤喫煙
などがあげられる。
いずれの症状も、本人の心がけ次第。真面目な食生活を送れば病気にかかる心配はない。塩分過多の食事や偏食を避けるだけで予防することが出来る。⑤を除き、すべて当てはまるものばかりで、正直言って、自分で自分が情けなかった。
このことは、だれでも知っているし、そうしたいと思っているのに、なかなか実行できない。なぜだろう。それは、人間として「弱い」からだ。精神的に「幼い」からにほかならない。これでやめればいいのに、と思いながら、つい、もう一杯飲んでしまう浅ましさ。
これが、積もり積もると大変なことになる。
この病気の特徴は、ほとんどの場合、重度の身体障害が後遺症として残る事だろう。しかも、やっかいなことに、血管が詰まったり、破れたりする原因が、百人百様であるため、後遺症の現れ方、重さの程度がまったく異なるから大変だ。
私の場合、軽度の左半身麻痺、注意力低下、集中力低下が残ったものの、外見上は常人と変わらず、一見する限り、二度も脳梗塞を患ったようには見えない。
もし、治療が遅れ、浮腫(むくみ)や血腫(血のかたまり)が広がっていたら、頭の中は逃げ場がないから、内圧がどんどん上がる。極限状態になると、生命中枢神経がやられて、ついに脳死に至る。
そうなっても、不思議ではなかった。危険因子を抱えていながら、漫然と過ごしていたツケが今また、回ってきただけだ。
退院し、改めて生活を見直した。その結果、食事は和食中心に切り替える。納豆、豆腐などの大豆食品、ワカメ、ヒジキなど海藻類を多用し、アルカリ性食品中心の献立にし、肉などの酸性食品は極力、食べないように改めた。
現実の社会を見ると、市販のインスタント食品、加工食品、外食食品には多くの塩分、脂肪分が含まれており、飲酒、過食の習慣は女性や若年層にまで広がっている。
さらに、ストレスの要因は常にいっぱいある。体質に関係なく、だれが高血圧症になってもおかしくないのが現実の社会だ。
昔から、酢が健康に良く、血液をサラサラにする効果のあることは、だれでも知っている。でも「なぜそうなのか」ということは意外に知られていない。
そのメカニズムを解明したのはイギリスのノーベル賞受賞の生化学者クレーブス博士だが、それを知っておくことは、成人病(生活習慣病)予防に大いに役立つと思われる。次号でもう一度、勉強してみたい。
Posted by 吉野父ちゃん at 11:00│Comments(0)
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