2004年03月10日
赤ワインソース
スーパーで買い物ついでに酒が買えるようになり、すっかり便利になった。規制緩和のおかげである。
西友へ行って、目についたのが豊富に品揃えされたワインだった。酒売り場で主役の座にあった清酒が焼酎にその座を奪われたと思ったら、今度はその焼酎が、ワインの陰で隠れるように小さくなっている。400円前後から高くてもせいぜい2.500円程度。リーズナブルで買いやすい。どれもこれも、とてもおしゃれなラベルを身にまとっている。
ワインといえばフランスやイタリアだろうが、それは昔の話。最近は日本でも、各地にワイナリーが誕生して、その土地ならではのワインが楽しめるようになった。フランス製ばかりをありがたがるのはそろそろやめて、国内産に目を向けたい。九州でも、湯布院や宮崎、福岡などに、個性豊かなワイン蔵がある。
数年前、宮崎県都農町に美味しいワインがあると聞いて、わざわざ出かけたのは良いが、5時間かけてやっとたどり着いたら、なんと、売り切れ。地元の人が長蛇の列で、早い人は夜明けから並んで、2時間足らずで売り切れたそうで、都農ワインはボクにとって今でも、幻の存在だ。
九州産を含めて、赤を何本か買って飲み比べてみると、これが結構美味い。なかでも、ぴったりだったのが「シャトー勝沼」の無添加赤わいん。価格も880円とお手頃だった。ちょっと甘めだが、野菜と一緒に煮詰めると、ワインの酸味と野菜の甘味がほどよく調和して美味いソースができそうだった。
牛肉の煮込みだけでなく、鶏肉や子羊の煮込みにもいいし、白身魚の煮込みだってうまそうだ。軽く塩、コショウしたサバの切り身に小麦粉をつけ、バターでゆっくり炒め、赤ワインでじっくり煮込んでみることにした。
ソースのつくり方の手順や分量は、専門書を参考にするが、大切なことはそれにとらわれることなく、自由に振舞うことだ。手順や材料を一つ一つ独立させてとらえるのでなく、他のいろいろなものとの関連の中で使ってみる。プロだったら間違ってもやらないだろうが、家庭の食卓で楽しむのだから、自分流でいい。
そこそこの味を出そうとすると分量の問題が生じる。少量をつくるより、ある程度の量をつくる方が味が一段と引き立つ。フランス料理も和食と同じで「だし」が命である。魚の赤ワイン煮には、フユメ・ド・ポワソンが欠かせない。魚の骨やアラの煮出し汁のことでこれに、香りや旨味をつけるため、赤ワインでゆっくり煮込んだのが赤ワインソース。
洋食のプロは、和食の料理人がカツオ節で丁寧にだしを引くように、野菜や魚のアラからじっくり出しをとるが、ボクが使うのは缶詰で良い。早い話、塩焼きした魚の骨とアラを茶わんに入れ、熱湯を注いでしばらくすると美味いだしとなる。つまり、潮汁なのだから、自分でやろうと思えば出来ないことは無いが、缶詰の味を試すのも勉強の一つだ。
本が書かれたころの野菜や肉、魚たちは肉が締まり、味も濃厚だっただろうが今は違う。鶏のダシガラを例にとるまでもない。骨の髄まで長い時間かけて煮出したとしても、ぶよぶよした人工飼育のブロイラーからは、鶏本来の味が出ない。
さて、吉野流の赤ワインソース玄海サバの煮込みはかくの如し。
ニンジン、玉ネギ、セロリ、ニンニクをバターで炒め、赤ワインと赤ワインビネガーを加え、半量まで煮詰める。ソースは布かザルでこし、別の容器に移し、四枚おろしのサバに塩、コショウし、小麦粉をまぶしてバター焼きする。きつね色になったところで、ソースを加え、フライパンを揺すって魚にソースをからめる。
この、揺すってからめるのが実に楽しい。フライパンの底がレンジに触れる度にゴトゴト鳴る。その音が手首の微妙な動きとともに、高く、低く、時には優しい響き方をしてくれる。
手引書によっては、グラニュー糖で甘味をつける方法が書かれているが、ボクは少し抵抗を感じる。砂糖を使えば簡単に甘味がつくだろうが、むしろワイン本来のほのかな甘味を、タマネギやセロリなど、野菜本来が持ち合わせた甘味で、増幅させてやるところにソースづくりの妙味があるように思う。
バターや生クリームで味を整えることは、ソースづくりの常道だが、ボクはバルサミコ酢を少し加えることにしている。それも、火を止める寸前に入れる。バルサミコ酢というのはブドウを醗酵させた酢で、最低でも5年間は熟成してある。それ自体でも、普通の酢より甘いが、熱を加えることでさらに甘味が増す。
話がちょっとそれるが、梅肉にバルサミコ酢を加えると美味しいソースが出来る。タイやヒラメなど白身魚のお刺身にとてもよく合う「梅バルサミコソース」だ。食欲の落ちる夏場は酸っぱいものがほしくなるが、甘酸っぱいソースは一服の清涼剤とも言える。
種をとった梅干しを包丁で叩いて、バルサミコ酢を混ぜ合わせ、少し煮込む。甘味が足りないなと思ったら、リンゴやナシをすって入れれば良い。オリゴ糖など天然甘味料があればベストだが、ここはバルサミコ酢を上手に使ってほしい。
さて、肝心のサバの赤ワインソース煮込みだが、青魚の臭味が、ワインのアルコールとともに吹き飛んで、口中に香味が広がった。付け合せにした熱々のマッシュポテトがまた結構。文字どおり、ビロード色のソースを白いポテトでぬぐい、なめるように食べつくした。
ワインソースに使うワインは、「辛口に限る」というのが常識らしい。料理の辞典にも書いてあるし、知り合いのシェフもそう教えてくれた。フランス料理にはやはりフランスワインで、「サンテミリオンに限る」と別のシェフがワインの銘柄まで教えてくれた。でも、ボクは日本人。国産を愛している。
複雑なようで単純なのがソースだと思う。だれに聞いても、読んでも「ワインは辛口に限る」と書いてある。でも、ボクの舌には、勝沼がぴったりだった。味はどのようにも広がりを見せるのだから、自由に、ゆったりつくるのが良いだろうと思ったからで、どうやら、その直感は正しかったようだ。つれあいの笑顔が「そうですよ」と語りかけている。
西友へ行って、目についたのが豊富に品揃えされたワインだった。酒売り場で主役の座にあった清酒が焼酎にその座を奪われたと思ったら、今度はその焼酎が、ワインの陰で隠れるように小さくなっている。400円前後から高くてもせいぜい2.500円程度。リーズナブルで買いやすい。どれもこれも、とてもおしゃれなラベルを身にまとっている。
ワインといえばフランスやイタリアだろうが、それは昔の話。最近は日本でも、各地にワイナリーが誕生して、その土地ならではのワインが楽しめるようになった。フランス製ばかりをありがたがるのはそろそろやめて、国内産に目を向けたい。九州でも、湯布院や宮崎、福岡などに、個性豊かなワイン蔵がある。
数年前、宮崎県都農町に美味しいワインがあると聞いて、わざわざ出かけたのは良いが、5時間かけてやっとたどり着いたら、なんと、売り切れ。地元の人が長蛇の列で、早い人は夜明けから並んで、2時間足らずで売り切れたそうで、都農ワインはボクにとって今でも、幻の存在だ。
九州産を含めて、赤を何本か買って飲み比べてみると、これが結構美味い。なかでも、ぴったりだったのが「シャトー勝沼」の無添加赤わいん。価格も880円とお手頃だった。ちょっと甘めだが、野菜と一緒に煮詰めると、ワインの酸味と野菜の甘味がほどよく調和して美味いソースができそうだった。
牛肉の煮込みだけでなく、鶏肉や子羊の煮込みにもいいし、白身魚の煮込みだってうまそうだ。軽く塩、コショウしたサバの切り身に小麦粉をつけ、バターでゆっくり炒め、赤ワインでじっくり煮込んでみることにした。
ソースのつくり方の手順や分量は、専門書を参考にするが、大切なことはそれにとらわれることなく、自由に振舞うことだ。手順や材料を一つ一つ独立させてとらえるのでなく、他のいろいろなものとの関連の中で使ってみる。プロだったら間違ってもやらないだろうが、家庭の食卓で楽しむのだから、自分流でいい。
そこそこの味を出そうとすると分量の問題が生じる。少量をつくるより、ある程度の量をつくる方が味が一段と引き立つ。フランス料理も和食と同じで「だし」が命である。魚の赤ワイン煮には、フユメ・ド・ポワソンが欠かせない。魚の骨やアラの煮出し汁のことでこれに、香りや旨味をつけるため、赤ワインでゆっくり煮込んだのが赤ワインソース。
洋食のプロは、和食の料理人がカツオ節で丁寧にだしを引くように、野菜や魚のアラからじっくり出しをとるが、ボクが使うのは缶詰で良い。早い話、塩焼きした魚の骨とアラを茶わんに入れ、熱湯を注いでしばらくすると美味いだしとなる。つまり、潮汁なのだから、自分でやろうと思えば出来ないことは無いが、缶詰の味を試すのも勉強の一つだ。
本が書かれたころの野菜や肉、魚たちは肉が締まり、味も濃厚だっただろうが今は違う。鶏のダシガラを例にとるまでもない。骨の髄まで長い時間かけて煮出したとしても、ぶよぶよした人工飼育のブロイラーからは、鶏本来の味が出ない。
さて、吉野流の赤ワインソース玄海サバの煮込みはかくの如し。
ニンジン、玉ネギ、セロリ、ニンニクをバターで炒め、赤ワインと赤ワインビネガーを加え、半量まで煮詰める。ソースは布かザルでこし、別の容器に移し、四枚おろしのサバに塩、コショウし、小麦粉をまぶしてバター焼きする。きつね色になったところで、ソースを加え、フライパンを揺すって魚にソースをからめる。
この、揺すってからめるのが実に楽しい。フライパンの底がレンジに触れる度にゴトゴト鳴る。その音が手首の微妙な動きとともに、高く、低く、時には優しい響き方をしてくれる。
手引書によっては、グラニュー糖で甘味をつける方法が書かれているが、ボクは少し抵抗を感じる。砂糖を使えば簡単に甘味がつくだろうが、むしろワイン本来のほのかな甘味を、タマネギやセロリなど、野菜本来が持ち合わせた甘味で、増幅させてやるところにソースづくりの妙味があるように思う。
バターや生クリームで味を整えることは、ソースづくりの常道だが、ボクはバルサミコ酢を少し加えることにしている。それも、火を止める寸前に入れる。バルサミコ酢というのはブドウを醗酵させた酢で、最低でも5年間は熟成してある。それ自体でも、普通の酢より甘いが、熱を加えることでさらに甘味が増す。
話がちょっとそれるが、梅肉にバルサミコ酢を加えると美味しいソースが出来る。タイやヒラメなど白身魚のお刺身にとてもよく合う「梅バルサミコソース」だ。食欲の落ちる夏場は酸っぱいものがほしくなるが、甘酸っぱいソースは一服の清涼剤とも言える。
種をとった梅干しを包丁で叩いて、バルサミコ酢を混ぜ合わせ、少し煮込む。甘味が足りないなと思ったら、リンゴやナシをすって入れれば良い。オリゴ糖など天然甘味料があればベストだが、ここはバルサミコ酢を上手に使ってほしい。
さて、肝心のサバの赤ワインソース煮込みだが、青魚の臭味が、ワインのアルコールとともに吹き飛んで、口中に香味が広がった。付け合せにした熱々のマッシュポテトがまた結構。文字どおり、ビロード色のソースを白いポテトでぬぐい、なめるように食べつくした。
ワインソースに使うワインは、「辛口に限る」というのが常識らしい。料理の辞典にも書いてあるし、知り合いのシェフもそう教えてくれた。フランス料理にはやはりフランスワインで、「サンテミリオンに限る」と別のシェフがワインの銘柄まで教えてくれた。でも、ボクは日本人。国産を愛している。
複雑なようで単純なのがソースだと思う。だれに聞いても、読んでも「ワインは辛口に限る」と書いてある。でも、ボクの舌には、勝沼がぴったりだった。味はどのようにも広がりを見せるのだから、自由に、ゆったりつくるのが良いだろうと思ったからで、どうやら、その直感は正しかったようだ。つれあいの笑顔が「そうですよ」と語りかけている。
Posted by 吉野父ちゃん at 14:00│Comments(0)
│まさかの人生